今回の「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年度改定版)」解説では、前回のスタジアム・アリーナにつづいて、文化・社会教育施設のPPP/PFI事業の特徴や事例などを見ていきたいと思います。
① スタジアム・アリーナ分野の特徴、事例、参入のポイント
② 文化・社会教育施設の特徴、事例、参入のポイント
③ 公園分野の特徴、事例、参入のポイント
④ 小規模自治体でのPPP/PFI事業の特徴、事例、参入のポイント
⑤ 民間提案制度の概要、事例、実施のポイント
文化・社会教育施設の特徴
「文化・社会教育施設」と聞いて、どのような施設をイメージしますか?
美術館やホール、図書館、公民館など、身近な施設を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
文部科学省では、文化施設、社会教育施設それぞれについて次の通り定義しています。
文化施設はどちらかといえば対外的な発信を、社会教育施設は住民の知識や教養を、それぞれ重視しているようです。
文化施設とは
|
社会教育施設とは
|
(出典https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/attach/__icsFiles/afieldfile/2011/07/14/1308485_5.pdf)
文化・社会教育施設はすべての市町村に立地しており、全体でみると膨大な施設数となります。
例えば、市町村立公民館の数は2020年時点で全国に1万2,548か所、図書館も3,273か所にのぼります。(2020年公共施設状況調査)
また、これらの管理運営には高いノウハウが求められるため、早い段階から指定管理者などの官民連携手法が採用されてきました。
図書館への指定管理者導入数は、2006年度より毎年20~50件のペースで増加しています。
また、社会教育施設全体で見ると、青少年教育施設などすでに全体の4割近くに指定管理者制度が導入されているものもあり、その伸び率も年度を経るごとに増加傾向にあるのが見て取れます。
PFI事業においても文化・社会教育施設の導入実績数は群を抜いており、実施方針が公表されたPFI事業のうち1/3を占めるほどになっています。
この動きを加速させるため、文部科学省は平成29年度以降、「文教施設におけるコンセッション導入の手引」や「文教施設における多様なPPP/PFI事業等の事例集」を作成し、積極的な情報発信や支援策を展開してきました。
このように積極的にPPP/PFIを導入してきた背景として、急速な施設の老朽化への対応や、維持管理費・更新費の増大の懸念がありますが、それと同じくらい「民間側に運営ノウハウがある」ことが要因だと考えます。
道路や公園などのインフラ、庁舎や消防署などの行政施設、医療や廃棄物などの保健衛生施設は、主な管理主体は行政機関であり、民間側に運営ノウハウが蓄積しづらい分野です。
他方、貸館(公民館)や劇場、展示場などは民間施設の数も多く、運営者も数多く存在していますので、公共にはない民間独自のノウハウが蓄積されている分野と言えます。
また、最新のシステムやコンテンツへの積極的な投資も可能であり、従来の公共にはない新たな発想で、市民に求められるサービスやプログラムを提供することも可能です。
このように、文化・社会教育施設の分野では、民間事業者が持つノウハウや創意工夫への高い期待が寄せられています。
事業者側も「従来の公共施設にはない新しい価値をいかに打ち出すか」「市民がおかれている現状に対して柔軟にプログラムを変更できるか」が問われています。
文化・社会教育施設の官民連携事例
最近注目を集めている施設として、大和市文化創造拠点シリウスがあります。
文化芸術に関する複合公共施設で、主な構成施設は図書館、ホール、生涯学習センター、屋内ひろばです。
その魅力は、大和市のホームぺージに余すことなく紹介されていますが、なかでもユニークなのが「図書館の本を、複合施設の中であればどこでも持ち歩いてよく、施設内のカフェにも持ち込んでいい」こと。
「図書館スペースから勝手に本が持ち出されて行方不明にならないのかな?」
「汚されちゃったらどうするんだろう?」
「事業者の提案なのかな?よく採用されたな」
そういう疑問を持つことでしょう。
実はこの条件、公募段階から要求水準として示されていたのです。
シリウスの公募時の募集要項を見ると、図書館について以下の記載があります。
(4)文化創造拠点全体と図書館の考え方文化創造拠点の1階から6階までの全体を図書館として捉え、利用者は貸出処理を経ることなく自由に、館内いずれの場所でも図書を閲覧できるものとします。
つまり、当初の計画段階から、図書館の本を館内どこでも持ち出していいよ、という計画になっていました。
また、貸出機を複合施設の総合エントランスに設置しており、本が借りたくなったらわざわざ図書館まで戻らず、建物の出口で手続きをすれば完了するというお手軽さ。
館内のカフェは事業者提案の自主事業ですが、このカフェの中でも図書館の本を読めるようにしたことで、利用者にとって特別な読書体験を提供することができたのです。
(出典:https://www.city.yamato.lg.jp/section/toshokan_jokamachi/sirius/)
文化・社会教育施設については、昨今のトレンドとして「融合・連携」が挙げられます。
特に今後増えていくであろう複合施設において、縦割りをいかに排除して複数機能がつながりあい、施設利用者の学びや気づきの機会を提供していくのか、その視点が問われていくのだと思います。
参入のポイント
ここまでで見た通り、文化・社会教育施設については図書館やホール、貸会議室など複数の施設が対象となり、さらにこれらの垣根を取り払うことで相乗効果を発揮しようという動きが進んでいます。
国も、公共施設の複合化によるメリットを全国に広めるべく、様々なインセンティブを設けています。
(例:国土交通省の取組「コンパクトシティの形成に関連する支援施策集 [6]公共施設再編との連携の視点)
その背景として、複合化によるコスト縮減などの財政的効果にとどまらず、利用者である市民の活動が多様化しており、「読書だけ、観劇だけ、スポーツだけ」という単一機能では市民のニーズに応えられなくなっている現状があります。
コロナ過を経て副業・兼業が進み、在宅ワークも浸透してきた今、公共施設のユーザーたる市民はもはや、3年前までの市民とは違う価値観を持っています。
行政のパートナーとなり市民サービスを提供していく事業者の皆様に求められるものは、ともすれば硬直化している行政側の縦割り思考を軽々と乗り越え、市民の置かれた状況や価値観を深く理解し、行政側にあるべき市民サービスの姿を提案することです。
文化・社会教育施設のジャンルでは、ますます企業側の提案力が求められていきます。
Comments